「来週の首脳会談は知っているわね?」
「ああ、V国との。」
「そう。」
「確か非公式、だろ?」
「そうよ。しかもあの国が今すべき会談ではない筈よ。なのに―――」
「援助が欲しいのさ。飽食暖衣のこの国に。」
「そうね、そうだわ。」

「で?俺は何をすればいいワケ?」
「僚・・・」
「XYZだろ?冴子。」
「・・・・」
「言えよ。」
「・・・首脳陣を追うように、テロリスト数名の入国が判明したわ。それから声明文も・・・」
「おー、ご苦労なこった。じゃあV国の要人をガードすりゃいいって事だ――」
「違うわ。」
「ん?」

「テロリストの一掃。それが依頼よ。」

「・・・事起こす前に殺せってか」
「ええ、一人残らず。生きたまま国へ返すな、と。」
「平和を謳う国がする依頼じゃねえのな。」
「全く。吐き気がするわ。」
「で、その吐き気がする程嫌な依頼をお前は何処から持ってきたんだ?」
「・・・・・」
「尻尾を掴まれているの。」
「あら〜、お前らしくない。」
「良く言うわよ。あなた達の――――」


「・・・・」
「ごめんなさい、違うの。」
「悪いな、冴子」
「やめて頂戴、違うの本当に。」

「お前もいい機会だ。も、辞めたらぁ?シティーハンターと仲良くするの。」
「僚」
「あ、ちゃ〜んともっこりは払ってからにしてくれよ?縁切るのは。」
「何言ってるの、帳消しよとっくの昔に。」
「いーや、365発。一年分だ!」
「香さんに回しておいて頂戴?」
「げ・・・」
「照れないの。じゃ」

「冴子。」
「何よ、まだ不満?」
「悪いな」
「・・・・・バカね」


























気付かれたか、というほんの僅かの焦燥に そりゃそうだ、という納得。
目の前に置かれたライフルを見て、僚は何と言っていいものか一瞬言葉を失った。


最早ただの素人でもあるまい、少し考えれば何処からどう撃ったらいいものか位見当が付く。
成長は嬉しいのだが今はそんな事を感心している場合ではない。
香から隠れた新聞の奥でふぅ、と小さく息を吐くと、顔を隠していたそれを丁寧に折り畳んだ。



「あ・・・・アタシだってシティーハンターよ!こ、これくらいあんたのパートナーしていれば見つけること位――――」
香が言葉に詰まった。普段向けないような眼差しで見据えたのが予想以上に効いたようだ。
あまりしたくはなかったのだが、と僚は思う。


「香」
「な、何よっ」







本当に訊きたいか?

知りたいか?

何度も心の中で繰り返されるその台詞。








冴子からの依頼は殺しで、それを断れば冴子はシティーハンターとの関係を明るみに引きずり出される。処分どころの話ではない。
本当ならば新宿、いや東京から姿を消してシティーハンターなど只の都市伝説だったと思わせてやればいいのだろうが。

独りであれば、誰を殺そうが何処に身を隠そうが容易い事だ。
どんな闇にだろうといつまでも潜んでいられる。
だが、今の自分は香と共に生きている。



「・・・成長したな」

言いながらやっぱりはぐらかすしかできないわな、と一人ごちる。


「・・・・・」

そして香が押し黙ったのを確認すると、声のトーンを普段に戻す。
香の喉からぐっ、という声が聞こえたような気がした。




(それでいいんだよお前は。)
僚は思った。


































「日本の警察も鼻が利くようになったな」
「あぁ、」
「いや、もっと上の方か。」
「だな。」
「日本のスパイ活動も進歩したと言うべきか。サエコも可哀想に。」
「・・・・・」

相槌さえも面倒だ。
僚はソファーにどっかりと腰を降ろし、煙草をくわえた。
懐をまさぐるがライターが見当たらない事に気付く。


「ぅお〜い、ミック、火ィ・・・」



言いかけた唇が煙草をぷ、と飛ばす。
空に舞ったそれは瞬時に壁に突き刺さった。

ダーツの矢を確認すると僚は咆哮した。

「お前な!煙草は的じゃねェんだぞ!」
「禁煙だ、悪いなリョウ。」
「口で言え口で!第一お前吸うだろが。」
「カズエが匂いを嫌うんだ。彼女の嫌がる事はしたくない。」
「ベッドの上では、やってんだろ」
「何か言ったか?」
「いーや、別に。」

それより、と僚は体を起こす。

「調べてくれたか?」
「誰に向かってモノを言っているんだ?」

パーフェクトだ、と胸を張りつつミックが封筒を投げてよこす。

「入国が確認されたのは全部で7人。」
「多いな」
僚が眉を顰めた。
冴子から受け取った資料には4人のデータしか入っていなかった。

「縁起を担いだらしい。」
「はっ。」
「スパイ活動は進歩したがどうにも出入り口が甘いらしいな。」
「どうにかせにゃいかんよ、日本は。」
「同感だ。ところで何人やったんだ?」
「両手に余る程♪」
「誰も『何人とヤッたのか』なんて訊いていない。」
「あら、違った?」
「ふざけるなよ。どうせカオリ一筋のくせに。」
「男女はもっこりちゃんにカウントされないんだよ。」
「言ってろシャイボーイ」
「るへっ」


口を尖らせながら封筒の中身に集中しようとする僚を見てミックは忍び笑った。
相変わらず、からかい甲斐のある男だと思う。


「3人だ」
「ん?」
「3人消した。」

コレとコレとコレ。
始末を終えた男達の写真を指で弾きフロアに落とす。


「そろそろあちらさんもお前の存在に気付く筈だ。気を付けろよ?リョウ。」
「心配されんでも気を付けるさ。」
「違う、俺はカオリの心配をしているんだ!」

握り拳を作って僚に力説するミック。
恋愛感情を抜きにしても、未だ香の事となるとこの男は執着を見せる。
やはり多少面白くないとは思ってしまい、それは態度に如実に顕れる。


「へいへい、気を付けますよ・・・」

僚が封筒を手に立ち上がる。

「じゃ、かずえくんにヨロシク♪」
「安心しろ、お前が来たなんて絶対伝えてやらん!」
「なはは、」


笑いながらドアノブに手を掛け、一瞬止まる。





「そうだ・・・ミック」
「ん?」





「香の事で頼みがあるんだが。」













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