無題1
「遅いわよ!」
煙の上がった廃ビルを見上げると、美樹と香が満足そうに笑いかけてくる。
「もう片付けちゃったんだから。ね?香さん」
「へっへー、そういう事。」
「おっかねぇ女達だこと」
僚が肩を竦めると
「全くだ」
海坊主も苦笑した。
「ファルコン」
美樹がパートナーを呼んだ。
「何だ――――」
5階の高さからひらりと美樹が飛び降りる。
海坊主は何の苦もなく彼女の体を抱きとめた。
「あ」
香はそんな美樹の姿に思わず惚けてしまった。
ちらりと僚を伺うと僚は即答する。
「おまぁはあっち」
当然の様に非常階段を指さす。
自分で下りてこいと、そういう訳だ。
「お前が飛び降りたらアスファルトに穴が空―――」
「悪かったわねどうせあたしは重いわよ!」
香の代わりに1トンのこんぺいとうが落下し、僚もろともアスファルトに穴をあけた。
続けて非常階段を乱暴に降りてくる香の足音。
「何で冴羽さんって素直に『心配だ』って言えないのかしら…」
「安全な飛び降り方くらい教えてやったらどうだ」
「うるへ……」
余計な事を、と僚が呻く。
未だ抱き合う夫婦の耳には届かなかった。