「・・・」
困った。
どこからどう触っていいのか見当もつかん。
今までならば嫌でも女の方から腕を首にこう、回してきてだなあ・・・
いや、無理だ。経験値ゼロの香がそんな事できる筈もない。
かといってただ見つめられるってのも気まずい。
「・・・・・」
「・・・・・」
組み敷いた香と睨めっこする事、数十秒。
ついに香から口を開いた。
「・・・ど、どうすんのよ、これから!」
「どうするったってなぁ・・・」
「・・・」
いいのか。
今更だが、いいのか?
そんな自問。
こいつにこのまま触れていいのだろうか。
自分が思うままに触れて、舐めて、挿れてしまっていいのだろうか。
これが香じゃなけりゃ、んな事は考えなくて済むのだろうが。
どうもコイツを前にすると調子狂うのな。
「・・・あー・・・」
言葉に詰まったまま香から目を逸らすと、丁度俺の放ったシャツとパンティが目に入る。
あー、畳みたくなるわ、うん。
何となくさっきの香の気持ちが解った。
「僚」
不意に呼ばれてハッと我に返る。
香が真っ直ぐに俺を見上げながら言った。
「解ってる。」
「は?」
「僚がどうしてもアタシにもっこりしない事は解ってる。でも・・・」
「いや、待てかお―――」
「いい。無理にこんな事させてゴメン。」
香が誤解を始めた。
俺の所為なのは解ってるんだが、ちょっと待て。
「あのな・・・そんな事、このもっこり見てから言えっての。」
視線で俺の下半身を示すと、促されるままに香が其処を見る。
「!?」
「な。」
何が『な』なんだか最早、自分でも良く分からないが、とにかく隆々とそそり立つ俺のもっこり。
どうだ見たか。
欲情してんの、俺は。
お前に。
ただ普通の女と一緒の扱いが出来ないだけだっての。
だからこうして困ってんじゃねぇか。
「・・・」
返事が返ってこない。
「おい」
香の視線はもっこりに釘付けだ。
そんなに見られたら僚ちゃん興奮しちゃう・・・じゃなくて。
「おい香」
「・・・・・・り」
「あ?」
「・・・・無理」
「何がだよ―――」
「そんなの無理・・・!」
待て。今更だな。
俺のもっこりの大きさは新宿の伝説、いや定説だろうが。知らなかったとは言わせんぞ。
一変して香がもっこりを拒否したのが解った。
「あはは・・・アタシ、その・・・」
空笑いの香が明らかに逃げ腰の体勢を作っている。
お前ね。
ここまで来ておいておあずけ?そりゃないだろうが。(人の事は言えんが)
ええい、もうどうにでもなれ!
前触れも無く組み敷いた香に体重を加える。
「あ」
自分の胸板で香の柔らかな胸が潰れるのが気持ちいい。
「り―――」
「ゴチャゴチャ煩いの、お前。」
―――――勿論、俺も。
こうなったら堕ちるトコまで、とことん堕ちてみるってのも一興だ。
首筋に唇を当てる。
香の息を呑む音が聞こえてきた。
−*−*−*−
「りょ・・・」
今までに聞いた事のない香の艶声。
こんな高い声も出るんだな。
感心しながら相変わらず指をその中で蠢かせる。
何者をも受け入れたことの無い其処は柔らかくも抵抗を見せたが、すぐにぬとりと絡み付いてきた。
「・・・っん・・・!」
愛撫を初めてから十数分。
足先に力を込めたまま、香が歯を食いしばっている。
その苦しそうな顔ったらまあ・・・おまぁは分娩台に上がった妊婦かと言いたくなる。
要するにあまり色気がないって事だ。
耳元で
「力抜けって」
そう囁くと
「無理・・・ッツ」
と。これまた苦しそうな声が返ってくる。
ふぅ、と溜め息をつくと俺は耳を甘噛みしてやる。
「あ・・・!」
躰が一瞬跳ね、指がきゅ、と締め付けられる。
「も・・やめ・・・っ・・・」
「・・・」
「りょ・・・もぉ・・・い・・・からっ・・・!」
「はいはい」
お前が良くても俺のが入らねぇの。
充分に解してやろうとはしているが、なかなか香の力みは抜けそうにない。
・・・一度、飛ばすか。
指の腹に当たる粘膜を執拗に、且つ的確な場所を何度も擦り上げてやる。
案の定、初めての刺激に香が狼狽え、暴れ出す。(普通は嬉しそうに啼くモンだ。)
予測したその状態ををしかと抑え付けながら刺激を与え続けてやると、足の爪先がこれ以上無い程にピンと張った。
「ちょっ・・・い・・・やッ・・・あ」
ガクン、と香の頭が後ろに反る。
瞬間、俺は声を抑えて笑った。
何でだろうな。破壊衝動にも似たこの感情は。
空いた方の手と口でゴムの封を切りながら俺は未だニヤニヤしている。
「・・・バカか」
そんな自分を気持ち悪いと思いながら、熱くなった指を其処から引き抜く。
「香」
「・・・ん・・・」
「そのまま力抜いてろ」
「ぇ・・・」
――――――きっと痛かった筈だ。
いや、痛いに違いない。
「!!!!!?????」
香が声にならない声を上げた。
「お、入った。」
「『入った』じゃない!抜いて!」
分娩台の妊婦再び。苦痛で顔を存分に歪ませ、香が咆哮した。
「辛いか?」
「当たり前だバカ!」
「まだ半分しか入ってないんだな、コレが。」
「え・・・・・・・」
「ホラ、力抜けって」
「い・・・・あああああッ!」
ズ、と腰を埋めてやると香が苦しそうな声を上げる。
止めようかとも思ったが、やはりそのまま全てを香に埋めた。(全く俺も意地が悪い。)
自然と香の腕が伸び、俺の首に巻き付いてくる。
「どう?香チャン。」
「・・・最低ッ・・・ツ!」
何とでも言え。
今の俺にゃ褒め言葉だ。
「辛いか?」
「だから辛いに決まってるでしょ!」
「あ、そ」
「僚ぉ!」
「そういう時はな、『優しくして?』って可愛くおねだりするモンだぜ。」
「だっ・・・誰がするか――」
「動くぞ。」
「待っ――――」
少しばかり突いてやると、香がもの凄い声を上げる。
長い手脚が俺の体に絡み付き、やがて俺は身動き取れなくなってしまった。
「おい、香。」
「・・・」
「お前はだっこちゃん人形か」
「・・・違うわよ。」
「離れろっての。」
「だって・・・」
モゴモゴと語尾を小さくさせる香に舌打ちすると俺は緩やかに動いてみる。
しかし香のヤツ。
俺にぎっちりとしがみついた上、突くと逃げるように腰を引く。俺が腰を引けばその動きに逆らわないようについてくる。
まるで出し挿れにならない。
「・・・お前ね。そんなにしたくないワケ?」
「そんな事誰も言ってない・・・」
「じゃあ諦めろ。」
そして再び腰を突き出すのだが
「・・・」
また引かれる。
―――繰り返す事十数回。
「・・・」
「あは、あはっ・・・」
いい加減往生際が悪いぞ。
焦れてきた俺は、香をマットレスに押しつけると逃げない様に目で射った。
−*−*−*−
はっきり言う。ベッドの上で喧嘩相撲をしたのは初めてだ。
「・・・・はぁ。」
やっと終わった。
未だかつて無い疲労感に襲われ、ノロノロとベッドサイドの煙草に右手を伸ばす。
「香?」
香はというと、事が終わるや否や、ベッドからまるでトカゲのように這い出て、シャツを羽織った。
「体に力が入らない…」
ボタンに掛けた手を止め呟く。
「ま、そうだろうな。」
降りたはいいが、ベッドに上る気力までは無かったらしい。香はその場に崩れ落ちた。
「そこで寝る気かよ。」
「だってもう動けないんだもん・・・」
「困ったヤツだな。」
煙草に伸ばしかけた手を途中で止め、抱きかかえるとベッドへ戻してやる。
左腕はそのまま香の頭の下敷きになった。
「香ちゃ〜ん?」
「・・・・・体が重い・・・」
「あれだけ動けばな。」
俺の左腕に顔を伏せたまま、動こうとしない香に苦笑する。
あれから。
逃げようとする香をとっ捕まえて、散々あれこれやった。
離せと叫ばれるわ、
逃げられるわ、
叩かれるわ、
変態呼ばわりされるわ、
痛がられるわ、
泣かれるわ、
それはそれはあまり色気のあるもっこりとは言えなかったんだが。
あー、何かもう、ハラいっぱい。
流石に今日はもうできん。
こんなに充足感のある一発は初めてだ、そういえば。
『僚・・・ぉ!』
最後の瞬間、香は俺を呼んだ。
何だろうな。それだけで満足してしまった俺がいる。
「・・・」
「あん?」
規則正しい寝息が左腕に掛かる。
バカ、寝るか普通。
余韻も何もあったもんじゃないな。
起きたらどんな顔するんだか。
・・・まあ、俺も心の準備ってモノが必要なのかもしれないな。
そう思いながら目を閉じた。
まさか絶叫から朝が始まるとは思いもせず――――
fin